講演レポート
なぜ日本に100年企業が多いのか——銀杏会二水会で後藤俊夫が語った長寿の定石
東京大学銀杏会 二水会「長寿企業大国にっぽん〜なぜ、日本には100年企業が多いのか〜」
2026年9月9日、東京・新橋亭で開かれた東京大学銀杏会・二水会にて、100年経営研究機構代表理事の後藤俊夫氏が講演した。演題は「長寿企業大国にっぽん〜なぜ、日本には100年企業が多いのか〜」。会場の新橋亭自体も創業80年の老舗で、二水会は約30年にわたり同店を会場としてきたという紹介から始まった。
数字が示す「長寿企業大国」
後藤氏はまず、2007年のNHKスペシャル「長寿企業大国にっぽん」に触れ、研究初期の数字をもとに日本が世界一の長寿企業大国と位置づけられた経緯を振り返った。一件ずつ確認を重ねた結果、2014年時点で2万5,321社、2019年時点で約5万2,000社、現在は約7万社に達していると示した。100年以上続く企業が一国でも存在する国・地域は168にのぼるが、日本の多さは突出している、というのが出発点だ。
「長寿企業は日本の宝、国宝」——後藤氏は、この言葉を世界に向けて発信してきたと語った。
長く続くための6つの定石
100年以上続く企業の多くはファミリービジネスだ。後藤氏は定石として次の6つを挙げた。
- 極めて長期的な視点(短期は約10年、中期は約30年、長期は100年)
- 身の丈経営(無理をしない)
- 自分の強みを生かす(強くない領域には手を出さない)
- 従業員・顧客・取引先・地域との長期的な信頼関係
- 安全性(リスクマネジメント)
- 続けるという決意と、それに基づく工夫
この6つは絡み合う。長期視点があるからこそ無理をせず、顧客や従業員を大切にする、という循環だと述べた。
支えるものは商業倫理=「商人道」
6つを支えるものとして、後藤氏が近年力を注ぐのが商業倫理だ。近江商人の「三方よし」、渋沢栄一が明治期に記した「企業は社会の公器」などを挙げ、海外へ伝える言葉として「商人道」を用いると位置づけた。会場の新橋亭にも触れ、伝統を守りつつ新しいものを追求する姿勢が長寿の現場に通じると示した。
家憲に見る「大志・統治・自慎」
機構が復刻を進める明治期の家憲集を例に、長く続く教えには三つの要素があると整理した。大きな志(パーパス)、統治(ガバナンス)、自らを慎む自戒だ。丁稚奉公と同じ着物・食事を課す記述や、成人後に全国を歩かせる教えなど、経営者自身が手本を示す厳しさが家憲に刻まれている点を強調した。キッコーマンゆかりの茂木・高梨・堀切各家については、飢饉時の救済と積み立て、200年単位の計画といった記録にも触れた。
危機は「6〜7年に一度」来る
自然災害、金融危機、戦争、産業革命、事業承継。過去100年を数えると危機は約16回にのぼり、平均すれば6〜7年に一度だ、と示した。長寿企業へのインタビューでは「10年に一度来る」と語る経営者もいるが、数えればそれより短い周期であり、だからこそ平時から備えている、という。コロナ禍にニューヨーク・タイムズが大きく取り上げた、創業1000年超の一和(京都)の事例も紹介した。
羅針盤は長寿企業
ポストコロナ以降の四つの新時代——危機の常態化、高齢化、ゼロ成長、資本主義の不全——にどう向き合うか。後藤氏の答えは「羅針盤は長寿企業である」だった。国内研究から海外関心、機構が2023年末に始めた国際研究の場INGLLEへと関心は広がっているという。講演時点で15カ国が参加し、さらに増える見通しだと述べた。後半では商人道の系譜を辿り、「他へのおもんばかり」を説いた。
おわりに
講演の後半では、鈴木正三から石田梅岩、稲盛和夫へと連なる商人道の系譜が語られ、商いの根にある「他へのおもんばかり」が着地点となった。質疑応答では、研究を始めたきっかけ、海外からの関心、欧州に長寿企業が少ない理由、規模を追わない家訓、事業の新陳代謝、来日研修、そして西洋にもある黄金律との違いまで、会場からの問いが続いた。数字と定石で「なぜ多いか」を示し、家憲と商人道で「何が支えているか」を問う——当日の講演は、その二段で閉じた。
文:百年継栄 編集部/講演:後藤俊夫(一般社団法人100年経営研究機構 代表理事)/取材協力:東京大学銀杏会 二水会
写真:東京大学銀杏会 二水会(2026.09.09・新橋亭)撮影。確認用プレビュー。